58は激怒した。必ず、かの 邪智暴虐の提督を除かなければならぬと決意した。
58には政治がわからぬ。58は、潜水艦である。海に潜り、イルカと遊んで暮して来た。
けれども変態に対しては、人一倍に敏感であった。

きょう未明58は村を出発し、海を越え海溝を越え、
十里はなれたこの横須賀の鎮守府にやって来た。
58には父も、母も無い。女房も無い。一六八の、内気な妹と二人暮しだ。
この妹は、村の或る律気な一提督を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。
58は、それゆえ、花嫁の指輪やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
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535: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:17:27 ID:twC8KcxDz
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。
58には竹馬の友があった。8である。
今は此の鎮守府の市で、司書をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちに58は、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきな58も、だんだん不安になって来た。
路で逢ったノンケの提督をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が溶鉱炉に火を入れ、まちはMNBで溢れいていた筈はずだが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。
58は両手で老爺に雷撃して質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

536: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:18:02 ID:twC8KcxDz

「提督は、艦娘を沈めます」
「なぜ沈めるのだ」
「海域をクリアするためだというのですが、誰もそんな海域に捨て艦する必要はないと言っています」
「たくさんの艦娘を沈めたのか。」
「はい、はじめは吹雪型の深雪さまを。それから、深雪さまを。
それから、深雪さまを。それから、妹さまの深雪さまを。それから、深雪さまを。それから、賢臣の深雪様を。」
「おどろいた。提督は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。
このごろは、部下の心をも、お疑いになり、大型建造をしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。
御命令を拒めば憲兵にかけられて、殺されます。きょうは、百人は殺されました。」
 聞いて、58は激怒した。
「呆れた提督だ。生かして置けぬ。」

537: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:27:58 ID:twC8KcxDz
 58は、単純な娘であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ鎮守府に入港した。
たちまち彼は、近海警備の駆逐艦に捕縛された。調べられて、58の懐からは魚雷が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。58は提督の前に引き出された。
「この魚雷で何をするつもりであったか。言え!」
暴君提督は静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その王の頭は荒涼として、眉間の皺は刻み込まれたように深かった。
「艦娘を暴君の手から救うのでち」と58は悪びれずに答えた。
「おまえがか?」提督は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」と58は、いきり立って反駁した。「羅針盤を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。提督は、妖精の忠誠をさえ疑って居られる」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。羅針盤は、あてにならない。人提督はもともと変態のかたまりさ。信じては、ならぬ。」
提督は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、ビスマルクを望んでいるのだが」
「なんの為のビスマルクだ。自分のおかずにする為か。」こんどは58が嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何がビスマルクだ。」
「だまれ、スク水の者」
提督は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。他人の大型建造を祝っておきながら影では舌打ちしておる。
おまえだって、いまに大破してから、泣いて詫びたって聞かぬぞ」
「ああ、提督は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしないでち。ただ――」
と言いかけて、58は足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下ちい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。
三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

538: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:33:34 ID:twC8KcxDz
「ばかな。」と提督は、嗄れた声で低く笑った。
「とんでもない嘘を言うわい。解体した艦娘が帰って来るというのか。」
「そうでち。帰って来るのです。」58は必死で言い張った。
「58は約束を守ります。58を、三日間だけ許して下さい。妹が、58の帰りを待っているのでち。
 そんなに58を信じられないならば、よろしい、この市に8という司書がいます。58の無二の友人でち。
 あれを、人質としてここに置いて行こう。58が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を沈めて下ちい。
 たのむ、そうして下さい。」
 それを聞いて提督は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの8を、三日目に沈めてやるのも気味がいい。
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの艦娘を磔刑に処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。
 おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
 58は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

539: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:41:01 ID:twC8KcxDz
竹馬の友、8は、深夜、鎮守府に召された。暴君提督の面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。58は、友に一切の事情を語った。8は無言で首肯き、58をひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、バケツをかけられた。58は、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
 58はその夜、一睡もせず十海里の路を急ぎに急いで、泊地へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、艦娘たちは海に出て仕事をはじめていた。
58の168の妹も、きょうは58の代りにオリョールの番をしていた。
よろめいて歩いて来る58の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく58に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」58は無理に笑おうと努めた。
「鎮守府に用事を残して来た。またすぐ鎮守府に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
 妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
 58は、また、よろよろと泳ぎ出し、家へ帰港して神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

540: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)21:42:42 ID:twC8KcxDz



中略

541: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)22:00:04 ID:twC8KcxDz
最後の死力を尽して、58は泳いだ。58の燃料は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて泳いだ。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、58は島風の如く工厰に突入した。間に合った。
「待て。その艦を解体してはならぬ。58が帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で工厰の妖精にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、妖精は、ひとりとして58の到着に気がつかない。
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれた8は、徐々に釣り上げられてゆく。58はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように妖精を掻きわけ、掻きわけ、
「58でち、提督! 沈められるのは、私だ。58だ。8を人質にした58は、ここにいる!」と、
かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。8の縄は、ほどかれたのである。

542: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)22:11:47 ID:twC8KcxDz
「8」58は眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
 8は、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高く58の右頬を撃った。雷撃してから優しく微笑み、
「58、私を撃て。同じくらい音高く私の頬を撃て。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を撃ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
 58は腕に唸りをつけて8の頬を雷撃した。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
 群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君提督は、妖精の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
 どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、潜水艦の仲間の一人にしてほしい。」
 どっと妖精の間に、歓声が起った。
「万歳、提督万歳」
 ひとりの少女が、緋のマントを58に捧げた。58は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「58、君はまっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、58の裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 58は、ひどく赤面した。

545: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)23:00:53 ID:oW7vkkmgy
はしれ58わらたw

543: 名無しさん@おーぷん 2014/05/14(水)22:33:32 ID:UvFe8rZBJ
深雪ェ・・・
あと、頭の中でメロスと58がごちゃ混ぜになって、
顔だけ58のギリシア人が走っているところを想像して変な笑い出た

544: 光学兵器 2014/05/14(水)22:55:40 ID:diO1iZsHz
深雪沈めまくるとかこの提督電(ぷらずま)だろw
しかし面白かったぜ、乙乙。

だが待て、最後に潜水艦の仲間にして欲しいとか言ってるってことはこやつもスク水を……w

546: 走れ58 2014/05/15(木)21:57:35 ID:soW7OkDPZ
もともとスレのネタで突発的に書いてたのを移しました
途中の中略は投稿が巧くいかずに消去されてリアルorzになってしまったので
解体選ぶ際に何故か深雪ばっか解体してたなーと思ったので
本スレではプラズマでなく天津風で>>1乙してるダケのノンケです、はい

引用元: 艦これSSスレ



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